※本記事は、千葉銀行が運営する『ちばぎんビジネスポータル』に掲載された当社代表のインタビュー記事を転載したものです。
展示会をはじめとする各種イベントの企画、ディスプレイの設計・制作・施工、そして運営を手掛ける株式会社昭栄美術。同社は、ディスプレイに使用した資材を自社設備で再利用できる形に加工し、新たな素材として活用するなど、サステナビリティへの取り組みでも注目を集めています。組織の強さの源は「人」にあると語る代表取締役社長の小林大輝氏に、組織づくりにおける仕組みや取り組みについてお話を伺いました。
今の経営につながる、課長職で味わった挫折感
――小林代表のプロフィールをお聞かせください。
小学校の頃からサッカーを続けており、負けん気がとても強いタイプでした。父がヒッチハイクで山形から上京したという話を聞き、「それなら俺は自転車で走り切ってやろう」と決心。中学2年生の春休みに、山形から自転車で5日ほどかけて東京に到着したのですが、途中、雪が降る山道で遭難しかけるなど、さまざまな困難に直面しました。親切に助けてくれる人もいれば、そうでない人もいて、これが初めて世の中を知る良い経験となりました。
大学では心身を鍛えるために空手に夢中になり、卒業後は公益社団法人日本空手協会に入職。自身の稽古に加え、後進の指導や協会運営にも携わり2年間活動した後、2007年に昭栄美術に入社しました。
最初に配属された製作部では、大阪工場の立ち上げに参加しました。立ち上げ当初は新人だったので、ほぼ雑用として工場の管理や掃除をしていました。東京に戻った後は営業職を経て、大手広告代理店へ出向。その後、再び昭栄美術の営業部、クリエイティブ部の課長、営業部長を務め、2019年に代表取締役に就任しました。
――代表就任前の経験で、一番苦労されたのはどのような時でしたか。
クリエイティブ部の課長を務めた時が最も苦労した時期です。当時、クリエイティブ部には明確な売上目標がなく、その曖昧さが他の部署との間に溝を生んでいました。そこで、部のルールを整備し始めましたが、反発したデザイナーたちが次々と退職し、15名いたメンバーが6名に。残ったメンバーで新たな目標を達成しなければならない状況で、デザインの知識が十分でない自分には売上に貢献することができませんでした。自分の無力さを痛感した一方で、メンバーたちに助けられていることを実感しました。
その後、どのような環境を整えればメンバーのパフォーマンスを向上させることができるかを考え、協力会社や外注先のリストを作成するなど、積極的にデザイナーのサポートに尽くしました。社員が活躍できる環境を作ることについて初めて真剣に考えた時期で、貴重な経験となったと思います。
心理的安全性を高め人材育成にも繋がる「委員会活動」
――御社は展示会の企画やブースの設計・製造などを手がけておられますが、業界の中でも他社と一線を画す強みとはどのようなところでしょうか。
拠点の多さや技術力などさまざまな強みがありますが、最も大きな特徴は「人」です。当社では、社員同士が心理的安全性の高い環境で連携できる仕組みや、一人ひとりの個性・能力を活かす場作りに注力しています。
代表的な取り組みの一つに、部署横断型の委員会の設置があります。「サステナブル委員会」「ホームページ委員会」など、さまざまな委員会があり、各部署の社員が委員として参加しています。
これにより生まれるのが「斜めのつながり」です。この関係性こそが、私が意識的に社員間に構築しようとしているものです。
例えば、悩みを抱えていた時に直属の上司には本音を言えなかったり、同僚には目線が近すぎてアドバイスが得られなかったりすることがよくあります。その場合、適度な距離感のある他部署の先輩や上司なら、気軽に相談しやすく、建設的な意見をもらえることがあるのです。
相談を受ける側も、相談者の上司と近しい立場にあることが多いため、その意図や考えをしっかりと解説することができます。このように、部署を超えた「斜めのつながり」が社員の働きやすさに貢献していると考えています。
さらに、委員会活動は「自分たちで会社を変革する」という意識を醸成する役割も担い、マネジメント研修にもつながっています。
――詳しくお聞かせください。
会社の変革に関して言うと、「業務改善委員会」からは月に60件近い改善提案が上がってきますし、「5S委員会」は定期的に現場とオフィスをくまなくチェックし、改善点を提案しています。社員が自分たちの提案を通じて会社が変わっていく様子を実感しており、その意識が日々の活動に活かされています。
また、委員会にはリーダーを選出してもらいますが、リーダーは横断型組織をまとめる経験を通じて、マネジメント職の役割を疑似体験できます。実務で結果が出せなければ降格もありますが、委員会活動で前もってリーダーの経験を積むことで、管理職として足りない点を見つけて改善し、自信をつけることができます。
――委員会活動はすぐれた人材育成の仕組みでもあるということですね。委員会設置のきっかけは何だったのでしょうか?
昭栄美術を「社員が自発的に動ける会社」にしたかったのです。当社は先代が千葉県浦安市でテレビのセットを作る工房を営んでいたことから始まりました。その頃の職人たちは魅力的ながらも気性が荒い人たちで、彼らをまとめるにはトップダウン型の経営が適していました。しかし、今のような変化の早い時代には、社員一人ひとりが自ら考え、自ら動ける組織へと生まれ変わる必要があります。
私は「人のために会社がある」という考えで経営していきたいと考えています。ですから、社員が自ら仕事をしやすい環境や居場所を作っていってほしいと思いますし、会社も社員からの働きかけによって柔軟に変化する組織でありたいと思っています。
社会資源を大切に使うことこそがサステナビリティ
――サステナビリティの取り組みについてもお聞かせください。御社はディスプレイで使用した資材を分別し、新しい資源として再生させ、活用するシステムを自社内で構築されています。
当社に「廃材」というものは存在しません。全て「資源」なのです。一度使った素材はしっかりと分別し、新しい素材として再利用するか、燃料として活用しています。確かにこれをサステナビリティへの取り組みとして紹介していますが、実際には1979年の創業当初から「もったいない。モノを大切に使う」ことを徹底してきました。
当時は埋立地からスタートした小さな会社で、資材の調達資金が十分ではありませんでした。テレビのセットや展示会向けのディスプレイは、数日から1週間程度しか使用されません。そんな中、同業他社が大量生産・大量廃棄を繰り返す中で、当社はできるだけ資材を再利用することに取り組んでいました。
その土壌が既にあった中で、優れたリサイクル技術を持つパートナー会社と協業できる機会を得て、現在の体制が整いました。
また、当社は「ISO 20121」(持続可能なイベント運営のためのマネジメントシステム規格)を取得しており、この規格の要求事項は非常に厳しく、取得に3、4年かかると言われていますが、当社はわずか半年で取得しました。それは、会社の成長とともに製販一体や輸送管理などの体制を整え、長年かけて廃棄や温室効果ガス(GHG)の削減に取り組んできた成果です。
ちなみに、当社では廃棄を減らす活動は利益を出すことと同じだと考えています。廃棄を減らすためには、まず原価を減らすことを意識しなければなりません。
当社では原価を「仕入れ値」ではなく、「社会資源」と定義しています。事業活動を行う際、地球の資源や人々の労働力をどれだけ大切に使うかが原価だと考えています。これがサステナビリティだと思っています。
――小林代表が目指す「売り手よし、買い手よし、社会よし、地球よし」という“四方良し”の考え方ですね。
その通りです。社会に対する貢献と、社員の生活を守る企業が最も意識すべきことは、持続可能であることです。そのためのヒントを求めて、この世界でもっとも長く存在しているものは何かを考えたときに、「自然」に行き着きました。自然に逆らわず、自然に学び、自然に即した経営のあり方を常に考えています。
自然に即した経営を広めるために、市場で存在感を発揮していく
――自然災害にも等しかったコロナ禍は、どのように乗り越えられましたか。
「人を集めてはいけない」と言われた時期でしたので、当然ながら売上は大きく落ち込みました。他社はオンラインイベントや内装の事業転換を試みていましたが、業界における後発のため、軌道に乗せるのは難しかったようです。
当時は資金繰りでも非常に厳しかったです。補助金などがありましたが仕事をしないで国からお金をもらうというのはおかしいと考え、あえて社員には出社をお願いし社内の強化に注力しました。
かねてから部署間の連携が課題となっていたため、営業部には製作に関する研修を、製作部やクリエイティブ部には営業に関する研修を受けてもらいました。互いの業務を理解し合うことで原価削減に弾みがつき、コロナ後には業績が急速に回復しました。コロナ禍から比べると、利益は125%まで成長しています。
――活動できない時期には活動期に向けて力を蓄えておくというのも、自然の摂理に近いものがあるように感じます。今後の展望についてもお聞かせください。
自然に即した、人を大切にする経営のあり方を広めていきたいと考えています。資本主義において「ヒト」「モノ」「カネ」「時間」「情報」などが経営資源とされますが、私は「ヒト」がそれ以外の要素と同列に扱われることに強い違和感を感じています。特に、経営者が口にする「人的リソース」という言葉には、「利益のために消費するもの」というニュアンスが含まれているように思います。これから働き手が減少する時代には、人を消耗品のように扱う会社は選ばれません。
当社は引き続き、人の個性や能力を最大限に活かせる組織作りに注力し、「人のためにある会社」を体現していきます。しかし、影響力を持つには存在感を示していかなければなりません。そのために、まずは売上を300億、500億と伸ばしていきたいと思います。
――本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。